ぼくはムクドリに謝らなければならない

今月に入って、家の外からやけに鳥の鳴き声が聞こえるなと思ってふと外を見ると、家の裏のアパートのベランダにムクドリが巣を作っていました。

ムクドリ
こいつがムクドリ。クチバシと足が黄色い。

天井付近に設置してあるエアコンの室外機とアパートの壁のほんの僅かな隙間に巣があります。
どうやら巣にはヒナがいるらしく、親鳥がエサを運んでくるたびに鳴くので賑やかだったのです。

ぼくたち夫婦は、晴れた日は窓の景色を眺めながら昼食を食べるのですが、ちょうど昨日もお昼を食べながらムクドリがエサを探しに家の周りを飛びまわっているのを見ていました。

あ! エサくわえてる!
結構大っきいね。
めちゃくちゃ働いてるやん、なんならぼくより働いてるんじゃないかな。

親鳥が繰り返しあちこち飛び回りエサを調達してくるのを見ながら、親の頑張りに感心していました。

そして翌日の今朝、ゴミ出しをしてコンビニでおにぎりを買って家に帰ってくると、昨日のムクドリが電線で騒々しく鳴いています。
それも1羽や2羽ではありません。10羽はいます。
中にはなぜかスズメも一緒にいました。

なんだろうな? と思って家に入り妻に聞いてみると、

「外の鳥がすごい鳴いてるね」
「うん知ってる、ヘビがいるんだよ」
「えっ、ヘビ…」

家の台所の勝手口から巣が見えるので、ほんの少し開けて確認すると、なんとアパートの壁をよじ登り、掃き出し窓の上を這いつくばりながら移動しているヘビがいるではないですか…!
そのヘビの先には…ムクドリの巣が。

そう、ヘビはムクドリの巣を狙ってやってきたのです。
親鳥はなんとか追い返そうと応戦しています。
が、親鳥にとってもヘビは脅威なのか全く攻撃できません。

(頑張って…! 追い返してくれ…!)
ぼくは心のなかでそうつぶやきながら祈るような思いで見守っていました。
なぜなら、ぼくはヘビとムカデが大の苦手で、ニュルニュル動く様は遠くから見ているだけでも全身鳥肌が立つほど生理的に受け付けないのです。
ぼくもムクドリと同じでヘビが怖い。

そんな他力本願な考えで応援していたのですが、ヘビが巣まで30cmに迫ろうとした瞬間、もういてもたってもいられず持っていたコンビニのおにぎりを放り投げて家を飛び出しました。

頭の中はヒナを守りたい、ただそれだけ。
家庭菜園用で家にあった150cmほどの細い竹の支柱を手に、無我夢中で裏のアパートまで走りました。

がしかし、時すでに遅し。
ヘビは巣のあるエアコンの室外機の裏に侵入していて、尻尾がちょろっと僅かに出ているだけ。
なんとかせねばと、尻尾を竹やりで突きますが、スススっと奥へ。

あぁ…終わった……。

エアコンの室外機の裏は天井付近で暗く、僅かな隙間からはまったく中が見えません。
おまけに排水ホースが完全に下からの視界を阻み、ぼくの目線からは中で起こっていることを確認することもできません。
おまけに脚立なんて家にないし、そもそもそこ人ん家だし。

隙間から竹やりで奥まで突けそうだけど、ヒナに当たったりでもしたらどうしよう。
なんて考えて手が出せずにあえなく退散したのでした。

なんてこった…。
33歳で立派なおっさんだけど泣きそうです。
何もできなかった自分が悔しい。
とにかく自分の無力を攻めました。

ヘビが怖くて初動が遅れたのがいけなかった?
コンビニに行ってたのが悪かった?
早く帰ってくればよかった?

これが自然の摂理、弱肉強食、食物連鎖。
生きるとはこういうことなのか。
アパートのエアコン設置の場所も巣作りの環境として問題だったんじゃないか。

なぜか無理矢理にでも納得しようとしていました。
手遅れでヒナを見殺しにしてしまったにも関わらず。

時間もなかったので、1mmも納得できないまま仕事を始めることに。
今頃ヒナたちはヘビのお腹に収まっている頃か…。
親鳥の悲鳴とも取れる鳴き声が外から聞こえます。

当然仕事が手に付かない。
午前中はとにかく自分を攻め続けました。
もっと早く動けばよかった。
他にどうすることもできなかったのか。
もはやそこには後悔しかありません。

そしてお昼頃席を離れるとどこからかヒナの鳴き声が…。
え、もしかして…まだ生きてる……の????

巣を見ると、親鳥がエサをくわえて飛んでいます。
親鳥はまだ諦めていなかった。
しかし親鳥は巣に近づこうにも近づけない様子。
さてはやつが…まだ中にいるのか…。

ほんの少しの希望を頼りに、巣の前まで確認しに行きました。
するとさっきは見えなかったエアコン室外機と壁の隙間から何やらウロコのような模様が見えます。

そうです、奴がそこにいたのです。
奴はお腹がいっぱいになったらしく、お腹が空くまで巣の真横に陣取っています。
ヒナは逃げたくても逃げられません。
いたぶっていたぶって腹が減ったら食べてやる、とはどういう性格の悪さでしょうか。

しかし今ならいけると、家に戻って竹やりという名の支柱を再び持ってきました。
そしてすぐさま見えている横っ腹を渾身の一突き。
やった。見事にクリティカルヒット。

ほんとに少ししか見えないのですが、中でこちらを向いている威嚇モードのヘビの頭が見えます。
その時ヘビな苦手なぼくは大量の冷や汗に全身の毛が逆立つほど鳥肌マックス。

でもここで諦めてはいけません。
わずかに見える頭を狙って竹やりで再度突きまくる。
ヘビも反撃に出ますが、竹の棒を噛もうするだけです。
何度も繰り返しているうちに、ヘビは嫌がって奥へ引き下がっていきました。
こちらからはまだ見えている。
もう少しと言わんばかりに突き続けると、堪えられなくなったヘビはたまらず逃げ出し、ドサッと天井付近から落ちてきたのです。

それを見たときの声にならない悲鳴。
そのお腹はぽっこりと膨らんでいて、星の王子さまのウワバミを連想させる出で立ちでした。
あぁ、めっちゃ食われとる…。
1羽や2羽じゃないぞたぶん…。

今日はぼくの人生史上で一番ヘビが憎い。
泣きたいほどに憎い。
でもヘビが苦手なぼくは、そいつに制裁を食らわせるほどの心を持ち合わせていなかった。

じゃあせめてカメラにだけでもそのふてぶてしいヘビの姿を収めようとしましたが、スマホを持っていない…!
逃げる前にスマホを、ということで急いで家まで取りに帰り、ワンカットの動画に収まった後ヘビは茂みに逃げていきました。

悔しいからその茂みを叩きまくってやりましたよ。
なんかかっこ悪いけど。

その後ムクドリは周りを警戒しつつもエサをヒナに届けるようになりました。
ただぼくは安心する一方で、目の前で犠牲を出してしまったという後悔が残っています。

ごめんなさい、ムクドリ。
ぼくがもっと強い気持ちでヘビに立ち向かっていたら、被害が最小限に食い止められたと思う。
次にヘビが来たのがわかったら絶対に巣には近づけない。
今回のことは勘弁してほしい。

今回の一件で、すっかり忘れていた恐怖に立ち向かう勇気を思い出しました。
やればできることも、敬遠してやらないことってたくさんあるじゃないですか。
誰かがやってくれるし。
自分には関係ないし。
きっとみんな気にするけど踏み出すのが怖いんですよね。

でも自分の気持ち次第で踏み出せる。
自分の素直な気持ちを大切にすべき、と改めて考えさせられる出来事でした。

五十川 洋平(Yohei Isokawa)

五十川 洋平(Yohei Isokawa)

フロントエンドエンジニア/面白法人カヤックなどのWeb制作会社に勤務したのち、故郷の新潟に戻り独立。JSフレームワークAngularやFirebase、Google Cloud Platformを使ったWebアプリ開発が得意。 また、Udemyのプログラミング解説の講師、writer.appの自主開発や上越TechMeetupの主催などを行っています。

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